街を知ることから始まる、堺市のブランド力

―― 編集長コラム 第2回 ――

連載・コラム

4/30/2025

4月、ニューヨークで行われたオートショーを取材してきました。私は日本の自動車雑誌「ニューモデルマガジンX(通称:マガジンX)」で連載を続けており、4月25日発売号で第97回を迎えました。月刊誌なので、連載は9年目に入ったことになります。

今回のニューヨークからの連載では、「トランプ関税」が日本の自動車メーカーに与える影響について取り上げました。ブランド力のあるメーカーは打撃を乗り越えられる一方、ブランド力の弱いメーカーは厳しい状況に立たされる、という内容です。中でも、アメリカ市場における日産の厳しさが浮き彫りになりました。理由は明確で、ブランド力の弱さです。

(写真:マガジンXは日本の書店やコンビニにも並ぶ人気の自動車雑誌です。最新号:ニューモデルマガジンX 2025年 06 月号

堺市にも問われるブランド力

この話を書きながら、サカイタイムズで堺市のニュースを配信している自分自身も、ふと考えることがありました。堺市にブランド力はあるのだろうか。

市の施策は全国の自治体と比べても大きく劣ってはいません。高齢者から子育て世帯までの支援策も整っています。ただ、個性ある飛び抜けた施策が行われているわけでもなく、ポテンシャルを十分に生かした街づくりがされているわけでもない。どこかがしていることはしている――大阪市と似たような施策なので不可も目立つことがない、という状態です。

全国から見れば、大阪で2番目の都市でありながら、堺市にそれほど存在感はないでしょう。懸命に欠点を補い、どの分野でも他都市と同レベルにしているものの(いや、しているからこそ)、個性が見えづらくなっているのかもしれません。

日産の姿と重なる堺市の現状

むしろ大阪では、梅田を中心とした北摂地域のほうが活性化している印象さえあります。ところが堺市は、ミスがないよう及第点を取ることに注力するあまり、徐々に大阪での存在感が薄まっていっているのではないでしょうか。ここに、アメリカでの日産と堺市に共通点があるように思います。

ニューヨーク・オートショーでは、今年のワールドカーオブザイヤーに韓国・起亜(KIA)の自動車が輝きました。日産車はベスト3どころか、ベスト10にも入っていません。おそらく日産は来年か再来年には、アメリカ市場で韓国のヒョンデと起亜に販売台数で抜かれることでしょう。昨年の時点で、すでに肉薄しているのです。かつて日本ではトヨタと並び称された日産も、いまやホンダに追い越され、存在感を失いつつあります。

こうした日産の長期的な凋落は、一気にではなく、ここ10年以上にわたってじわじわと進んできたものでした。大きな変化が起きたわけではないのに、気づけば周囲に抜かれていた――そんな日産の姿に、堺市の立ち位置が重なって見えてきます。

人口データが示す堺市の課題

堺市の人口は、2010年の84万2,134人をピークに減少が続いています。特に、2015年以降は全国や大阪府よりも減少率が高い状態が続いており、2020年の国勢調査では以下のような結果が出ています。

【2015年~2020年の国勢調査】
・堺市:▲1.6%減(83万9,310人 → 82万6,161人)
・全国:▲0.7%減
・大阪府:+0.03%増(884万2,523人)


大阪府全体はわずかながら増加に転じましたが、堺市は約1万3,000人の人口減少となっており、府内でも際立って減少の傾向が強まっている都市です。

そして2025年4月時点では、堺市の人口は80万4,163人まで減少しており、2020年と比べて約▲2.7%減(約2万2,000人減)となっています。

堺市では、ここ数年「出生より死亡が多い自然減」が続いていますが、それを補うはずの「転入による社会増」はほとんど見られません。月ごとの推移を見ても、社会増減は数十人から数百人規模の微差にとどまり、転出超過の月も多くなっています。結果として、堺市の人口は年間で約4,000〜5,000人規模の純減が毎年のように続いているのです。

なにが良くて、なにが足りないのか

日本でもすでに都市間競争は始まっています。堺市も包丁などの伝統産業をPRするだけでは新たな人の流れを生み出すことはできず、競争に勝つことも難しい時代になっています。ブランド力を高めるには、自分たちの利点や問題点を知ることです。なにが良いのか、良くないのか。堺市にはポテンシャルは十分にあるでしょう。知らない、あるいは知らされていないだけです。

知ることから始まるブランド力の再構築

ニューヨークはもともと何もない場所から発展した都市ですが、ニューヨークの人たちは日常的に地元のことを話題にしています。残念ながら、堺市で旧知の仲が集まっても堺市の話題はほぼゼロです。共通の話題や知識に「堺」が入っていないからでしょう。堺市でも、地元のニュースが自然に話題になる文化が根づいていけば、きっとニューヨークのように街のブランド力も高まっていくはずです。

まずは、堺市民自身が堺市をもっと知り、もっと盛り上げていくこと。サカイタイムズを継続して読んでいれば、堺市のことが自然と知ることができるようになれば。そんな想いをあらためて強くした4月でした。

2025年4月1日(日本時間)
サカイタイムズ 編集長
笹野 大輔

(写真:マガジンXは日本の書店やコンビニにも並ぶ人気の自動車雑誌です。最新号:ニューモデルマガジンX 2025年 06 月号